出社時間から始業時間までの間に行われる作業準備が、会社命令の場合または労使慣行によるものである場合には、労働時間になります。そして労働基準法上の労働時間に当たるかどうかは、客観的に判断されるもので、就業規則などで労働時間とされた時間が、そのまま法律上も労働時間と扱われるわけではありません。労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令の下に置かれていて労務を提供している時間をいいます。
「労働時間」という用語は、休憩時間を含めたもの(拘束時間)を指すこともありますが、労働基準法上は休憩時間を除いた実労働時間を指します。労働時間については、労使当事者が就業規則や労働協約、あるいは個別労働契約により決定できるかという問題が生じますが、労基法は当事者の合意に優先する強行法規であることから、当事者の主観的な意思によっては左右できず客観的に決まるものであるという理解が一般的です。最高裁も最近、こうした立場をとることを明らかにしています
そうすると、次に、「労働時間」とは客観的にどのように定義されるかが問題になります。この点については、従来から様々な見解が唱えられてきましたが、最高裁判決は、通説的な立場に従って、労働時間とは労働者が使用者の指揮命令の下に置かれている時間であるとする見解(指揮命令下説)を採用しました。
さて、具体的にどのような時間が労働時間とされるのかです。そこでいくつか具体的類型を見てみましょう。まず、店員が顧客を待っている間の手待時間は、実作業を行っていなくとも、一般に労働時間に当たると解されています。ビル管理会社の従業員が与えられる夜間の仮眠時間も、仮眠場所が制約されることや、仮眠中も突発事態への対応を義務づけられていることを理由に、労働時間に当たるとする判例が多くみられます。
また実作業に入る前や作業終了後の更衣時間については、判例の結論が分かれていましたが、最高裁は、使用者が造船所の労働者に事業所内での作業服等の着脱を義務づけていた事案においては、就業規則等の定めにかかわらず、そうした更衣時間は労働時間に当たると判断しました。ただし、最高裁は、そうした更衣に要する時間も「社会通念上必要と認められるものである限り」労働時間に当たるとして、一定の制限を付していますし、一般の事務職の制服についての更衣時間に関してまで及ぶかは、必ずしも明らかではありません。
法定労働時間は、週40時間、1日8時間(休憩時間を除く)と定められています。なお常時10人未満の労働者を使用する商業・映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保険衛生業、接客娯楽業の場合、週44時間とする特例措置があります。使用者は、この法定労働時間内であれば任意に労働時間を定めることができます。
しかし、使用者が法定労働時間を超えて労働者を働かせるには、労使間で労働基準法36条に基づく、いわゆる三六協定を結び、労働基準監督署に届出る必要があります。また実際労働させた場合には、割増賃金を支払う必要があります。あなたの場合、1日の法定労働時間を超えていますので、労使間で三六協定が結ばれていない限り、15分前に出社し作業準備を命じることは違法な取扱いとなります。
ご質問にある社員研修の性格が、自由参加のものであれば、社員研修の時間は労働時間になりませんが、強制参加の研修であれば、当然その研修時間は労働時間となり、会社は賃金を支払わなくてはなりません。
現在各企業では、社員の能力を高め企業の業績を向上させる目的のために、様々な研修が行われています。その形式も会社主催のものや社員が自主的に主催するもの、参加も自由参加であったり強制参加であったりします。このようないろいろな態様がある社員研修に参加する時間が、労働時間に該当するのか否かの判断は、使用者がその研修への参加を強制しているかどうかによります。
一般に労働時間となるには、使用者の業務命令があり指揮監督下にあることが必要だからです。しかし自由参加といっても、これに参加しないと就業規則上の懲戒処分を受けたり、人事考課上のマイナス評価を受けたり、研修参加が業務上不可欠である場合には、事実上参加が強制されていると見るべきでしょう。
参加を強制されている研修が、所定労働時間内に行われるのであれば、使用者はそれに対する特別の措置は必要ありませんが、その研修が法定労働時間外に行われる場合には、使用者は時間外労働に関する労使協定の届出と割増賃金の支払いが必要になります。またその社員研修が、法定休日に行われるのであれば、使用者は振替休日の手続きをとらない限り、休日労働に関する労使協定の届出と割増賃金の支払いが必要になってきます。
労働基準法第32条により、使用者は労働者に、休憩時間を除いて、1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならないと定めています。(なお週法定労働時間については、常時10人未満の労働者を使用している、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業については1日8時間、1週44時間とする特例措置があります。)
そのため使用者は、自分の会社の労働時間をそれ以上長いものとすることも、法定労働時間を超えて労働をしてもらうことも、原則できません。しかし、使用者が仕事量の増加に対応するために、労働者に対し法定労働時間を超えて時間外労働をさせなけらばならないときがあります。
この場合、使用者は、時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆる三六協定)を結び、労働基準監督署に届出をする必要があります。また実際に時間外労働が行われた場合には、法律に基づいた割増賃金の支払いが使用者に義務付けられています。
電話番の従業員は、電話のあったときにそなえて待機していなければなりませんから、業務から完全に開放された状態にありません。したがって、その従業員に休憩時間を与えたことにはならないと考えられます。
労働基準法34条では、使用者は、労働者に対して、労働時間が6時間を超え8時間以内の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与える義務を負っています。労働が長時間継続すると、労働者の心身に疲労をもたらすうえ、災害が起きやすくなったり、能率が低下したりするおそれもありますので、疲労回復のために休憩時間を与えることとしたものです
ここでいう休憩時間とは、一般に、労働時間の途中に置かれた、労働者が権利として労働から離れることを保障された時間であると定義されています(昭22.9.13発基17号)。そして、労働から離れることを保障されているか否かは、労働者がその時間を自由に利用できるかどうかで判断するとされています。したがって、お尋ねのような場合は、完全に労働から開放された状態ではなく自由利用が保障されているとはいえないようです。むしろ労働時間に当たるように思われます。
休憩時間の長さは、上記の通り、労働時間が6時間を超え8時間以内の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間ですが、休憩時間を分割して与えることは現行法上禁じられてはいません。また休憩時間は、事業場における全労働者に一斉に与えるのが原則ですが、事業場の過半数組合そうした組合がない場合は過半数代表者との協定を締結すれば、例外が認められます。
休憩時間は自由利用が原則です。休憩時間が労働から解放される時間である以上当然といえますが、こうした自由利用を保障された休憩が与えられなかった場合には、それによる精神的苦痛について慰謝料請求が認められる場合があります。また、使用者が休憩中の外出を制約できるかが問題となりますが、行政解釈は事業場内において自由に休憩できるかぎりは、外出許可制をとってもさしつかえないとしています。(昭23.10.30基発1575号)。
貴社の場合は、電話番をする従業員に別に法定の休憩時間を与える必要があります。また電話番の時間が法定外労働に該当すれば、割増賃金を支払う必要があります。