入院中の従業員Aを解雇することはできません。労働者の解雇は、原則として使用者の自由ですが、正当な理由のない解雇は無効とされています。また、労働基準法第19条は下記の期間については、いかなる解雇事由が生じても解雇を制限しています。これは労働者の身分の安定を図り、解雇後の就職活動においても支障をきたすことがないように保護することを目的としています。
@業務上の傷病による療養のため休業している期間とその後30日間
A産前産後(産前6週間・産後8週間)とその後30日間
ただし、@の場合において、療養開始後3年を超えても傷病が治癒しない場合、次のいずれかに該当すれば解雇制限が解除され解雇することができます。
平均賃金の1,200日分の打切補償を支払う場合
療養開始後3年を経過した日、または同日後において労災保険の傷病補償年金を受けることになった場合
天災事変その他やむを得ない事由のため、事業の継続が不可能となった場合は、解雇制限は解除されますが、この場合には、所轄労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。なお,通勤途上の負傷による休業については、解雇の制限はありません。
したがって、貴社の従業員Aは、業務上の負傷により入院しているわけですから、休業が終了した後30日を経過してから解雇手続きをとるしかありません。
整理解雇とは、企業側の一方的な経営上の理由により相当数の労働者をまとめて解雇することをいいます。下記の4要件を満たさない場合には、整理解雇を行うことができません。
人員削減しないと倒産に至るなどの高度な経営危機が存在する場合等、合理的運営上やむを得ない必要に基づくものであることが必要です。単に生産性向上を目指すといった程度では、整理解雇の必要性があるとは言えません。
整理解雇は、リストラの最後の手段ですので、会社は整理解雇を回避するため努力する義務があります。役員報酬カット、役員削減、新規採用の中止、時間外労働の規制、退職勧奨、希望退職勧奨等相当な努力が尽くされていなければなりません。
評価者の主観に左右されない客観的な基準に基づいて人選を行ったこと。
整理解雇を行うにあたって、労働者・労働組合と誠実かつ十分に協議し納得を得るような努力が必要です。
人選を行う場合には性別や国籍による差別は禁止されています。既婚している女性であるとか、または外国人であることを整理解雇基準にすることは、対象者選定に合理性がなく、憲法第14条、労基法第3条違反となる差別的取扱いにも該当し認められません。
また、整理解雇回避努力義務の中に非正規労働者(臨時社員、パート、アルバイト等)を優先的に解雇することを求めた判例がありますが、実質的に企業の基幹的機能の一員になっている場合には、整理解雇基準の第1順位にあげることは許されず、あくまでも企業に対する貢献度を考慮する必要があると考えられています。
懲戒処分は、処分理由とこれに対する懲戒の種類・程度が、就業規則上明記されていなければなりません。懲戒解雇者に対し退職金を支払うか否かについては、就業規則の退職金規程により決まりますが、全額不支給とすることがほとんどです。 とはいえ、懲戒解雇の事由がいかなるものであっても全額不支給と定めていればいいというわけではありません。
処分は、違反の種類・程度等に照らして相当なものでなければならないとし、 多くの判例では、相当性の有無の問題が検討されています。不支給規程が有効に適用できるのは、退職金が永年勤続の功労を抹消してしまうほどの著しく信義に反する場合に限られるとしています。
まずは、 就業規則の懲戒解雇規定の有無、理由の具体性・客観性を確認して下さい。次に、退職金規定に支給制限(減額)規定があるかを確認しましょう。就業規則上に、懲戒解雇に関する規定があるときは、その規定の制約を受けます。就業規則により懲戒解雇になっても、労働基準監督署の除外認定を受けなければ、労働基準法第20条の解雇の手続き(30日以上前の予告または30日分以上の平均賃金の支払い)が必要になります。
次に、懲戒解雇理由を記載した解雇通知書の交付を求め、交付がなされないときは、労働基準法第22条に基づく退職時の証明を請求するとともに、会社側の説明をできるだけ記録しましょう。これらにより懲戒解雇理由を明確にし、退職金不支給(減額)処分の運用が恣意的で濫用されていないか、検討して下さい。
退職の申入れは、労働者側から労働契約を解約する旨の意思表示であり、会社の承認は不要です。 就業規則などに退職には会社の承認を必要とする旨が定められている場合もありますが、このような定めは労働者の解約の自由を制限するものであり、無効と解されています。
労働契約に期間の定めがない場合は、労働者はいつでも解約(辞職)の申入れをすることができ、この申入れ後2週間が経過すると労働契約は終了します。就業規則などで2週間の解約告知期間を延長することが定められている場合がありますが、民法の告知期間に関する規定は、強行規定と解されており、この期間を延長する就業規則などの定めは無効とされています。
労働契約に期間の定めがある場合は、労働者は、病気や会社倒産などのやむを得ない事由があるときに限り、直ちに労働契約を解約できますが、やむを得ない事由がないときは、使用者の承諾がない限りは期間中に退職することはできません。
まずは、 労働契約期間の定めの有無を確認し、 次に就業規則で退職についての規定を確認しましょう。 辞める理由によっては直ちに契約を解除できる場合があります。明示された労働条件と実際の労働条件が違う場合には、労働者は直ちに契約を解除することができます。
円満に退職するには、後任の手配や仕事の引き継ぎなどの会社側の都合を考慮し「退職日をいつにするか」ということを、会社側と話し合い、就業規則の規定に従って、退職の手続きを進めましょう。しかし、 就業規則の中で、退職届の提出日が退職予定日より何ヶ月も前に設定されている場合や、退職届を受け取ってもらえない場合などには、公的機関に相談しましょう。
就業規則などに、退職金の支払い規定がない以上、会社には退職金の支払義務はありません。退職金は、労働契約、就業規則、労働協約などによってあらかじめ支払条件が明確に規定されていない限り、労働基準法上の賃金には該当しません。
労働基準法第89条は、退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲 退職手当の決定、計算及び支払いの方法、支払いの時期に関する事項について就業規則に定めなければならないとしています。就業規則本体には定めず、別に「退職金規定」を設けている場合もあります。
もちろん、文書による規定がなければ退職金を払ってはいけないという意味ではありません。希望退職を募集する場合や長年にわたり会社に大きな貢献をした者等に対して、規定にない退職金が支給される場合もあります。 また、小規模の企業等で就業規則を設けていない場合などでも、過去の慣例があればこれに従うことになります。
まずは、就業規則に退職金に関する定めがあるか、 過去に退職した人が退職金を貰っているかを確認しましょう。そして、 過去に退職した人が退職金を貰っているなら、慣例に従って支給するように要求してみましょう。また、 自分の功績を主張して、世間並みに退職金を支給するように要求してみることも考えられますが、これは法律上の権利ではありません。